かつて獣人達は、人間達からはくがいされ、いつしか、
この夜だけの森、「月夜の森」にかくれ住むようになっていった…
だが、ここに、一人の獣人が立ち上がった。
獣人王…
彼は、獣人達の国家、ビーストキングダムを建国し、
いつの日か、人間界にふくしゅうすべく、機会をうかがっていた…
死を喰らう男
「…イッヒッヒッヒ…これはこれは獣人王様…
本日も、ごきげんうるわしゅう…
獣人王
「……
死を喰らう男
「いよいよ、人間共に、ふくしゅうする時が
やってまいりました!世界は、マナの変動によって、
大きく動き始めております!!今がチャンスですよ!ウヒ…
獣人王
「……オマエ、何者だ?…
「もうしおくれました。私は死を喰らう男と呼ばれております。
人間共へのふくしゅうというところで、目的はひとつ…
およばずながら、お手伝いさせていただきます…ウヒヒ…
獣人王
「……フン、よそ者の力は、いらん…失せろ…
死を喰らう男
「ひえっ!おた、おたすけ…シッシッ!
わ、わかりましたよ。もし、お気持ちが変わって、
私の、闇の呪法の力が必要になったら、またまいります…
獣人王
「……まて…、オマエにチャンスをやろう…
死を喰らう男
「イヒヒヒ、さすがは獣人王様!
何なりと、おもうしつけください!
必ずや、ご期待にそう事でありましょう…
ビーストキングダム、獣人王の息子、ケヴィン…
獣人王と、ふつうの人間だった母親の間に生まれたが
その母も、幼かったケヴィンをおいて去ってしまった…
子供心に深いキズをおってしまったケヴィンは、
心をふさいだまま、獣人王の後継者たるべく、
れいてつな戦闘マシーンとして、きたえられていく…
ところが、そんなケヴィンも、森で母ウルフに死なれ
一人ぼっちになった、ちびウルフ、カールとの出会いで
やさしさと愛に目覚め始めていた…
カール
「くぅーん、ぺろぺろ…
ケヴィン
『…う…う〜ん…
ケヴィン
『カール、よく眠ったか?
カール
「わんわん!
ケヴィン
『アッハッハ、カール、それ犬のなき方!
おまえ、ちびだけど、ほこり高きウルフ!
ウルフのなき方、こう…
ケヴィン
『カールとオイラ、よくにてる…
おまえ、ウルフなのに犬みたい…
オイラ獣人なのに、人間の血、流れてる…
ケヴィン
『…それに、ふたりとも…母さん、いない…
カール
「くぅ〜ん…
ケヴィン
『だいじょうぶ!カール、大切なトモダチ…
おまえの母さんの分まで、オイラ、カール守ってやる!
カール
「わんわん!
カール
「ウウ〜!ガルルル…
ケヴィン
『! カール、どうした!?
ケヴィン
『カール!!いったい、どうした!?やめろ!
ケヴィン
『…うっ…や、やめろおぉぉ
ケヴィン
(…グッ…か、体がいう事をきかない!!)
カール
「…くぅ〜ん…ぺろ…ぺろ………
ケヴィン
『…う…あ…ぐ…そ、そんな…
カールっ!!カールっ!!
ケヴィン
『…なぜ…こんな事に……
(カールのおはか…)
突然わきあがった、野生の血…
獣人に変身したケヴィンは、
カールを手にかけてしまった…
カールとよく行った思い出の花畑に、
小さなおはかをつくり、悲しみにくれるケヴィン…
ケヴィン
『ううっ…ごめんよ、カール…ごめんよ…
それからどれぐらい、森をさまよったろうか…
いつのまにか、ビーストキングダム城に戻りつき
ただ、たたずむばかりであった…
ケヴィン
『…オイラ…カール、まもって
やれなかっただけでなく、この手で、カールを…
『オイラにながれる獣人の血…
…オイラは…なぜ…オイラは…あの時、獣人に…
「どうしたんだ、ケヴィン?
顔色が悪いぞ…
「むかし、獣は、火をおそれていた…だが、獣人はちがう。
火を使い、知恵も人間なんかに負けない!
その自信を、獣人王様が我々にあたえてくださったのだ。
「ちょいと、きいとくれよ、ケヴィン!
あたしゃ、目には自信があるのに、息子が老眼だろうって!
じょうだんじゃないよ!ぜったい月の数が減ってるんだって!
「月明かりの森には、月読みの塔がある。
塔に、この森をいつでも夜にしている
秘密の何かがあるらしい…
「獣人といえども、人間と、何ら変わりはないのに…
なぜ、オレ達だけが、しいたげられてきたのか!
人間どもに、獣人の方がすぐれている事をわからせてやる!
「おや、ケヴィンさんは、人間とうばつたいには
さんかしないんですか?
「いよいよ、こんな夜だけの森とはおさらばして、
まっとうな世界に戻れるんだな!
「わーい、ケヴィンのにいちゃん!
あれえ?ねえねえ、カールはいっしょじゃないの?
「ルガーが、獣人王様ちょくぞくの親えい隊どもをあつめて、
人間界への、侵攻のうちあわせをしているらしい…
くそー、オレもいきたかったぜ!
「元気なさそうだな、ケヴィン…おれ達獣人にだって、
マナの女神様は、わけへだてなく、お恵みをくださる…
ほら、そこの女神像においのりをしなよ。力がわいてくるよ!
「いよいよ、人間界に侵攻を開始するらしいぞ!
「獣人王様は、いだいなるわれらのリーダーだ!
ケルベロス
「ウ〜〜〜
ケルベロス
「がるるる…
「あら、ケヴィン!
…あなた、獣人王様の後継者なんでしょ?
もし、王様になったら…あたしをお妃さまにして〜ん!ウフフ…
「モテモテだな、ケヴィン!
だが、ちゅういしろよ、あのこは変身すると、
むちゃくちゃ強いからな…しりにしかれちまうぞ!
ルガー
「獣人王様のめいにより、われら獣人軍は
これより、人間界に侵攻を開始する!
最初のもくひょうは、聖都ウェンデル!
獣人兵達
「うぉーっ!!
ルガー
「今まで人間達に、しいたげられたうらみ、
今こそはらさん!
「人間達の心のよりどころである、聖都ウェンデルを
まっ先にたたき、人間達に精神的ダメージを与えてやれ!
獣人兵達
「うぉーっ!!
ルガー
「ケヴィン、よく聞け!我々親えい隊が
城塞都市ジャド、そして聖都ウェンデルを落とす!
「どうだ、ケヴィン!獣人王様はオマエじゃなく、
このオレ、ルガーを人間界侵攻の隊長にお選びになった!
おまえじゃ、たよりにならんとさ!ハッハッハ…
「獣人王様のところに、よそものがやってきたそうだ!
我々獣人に、手をかすとか、言ってるらしいが
何者なんだろうな?
「かんがえてみりゃ、おまえの母親って人間だったよな?
おまえをすてて、にげてった母親が憎いだろ!?
よかったじゃないか、ようやく、ふくしゅうできるぜ!
「獣人王様なら、いらっしゃらないよ!
何か外国からきたという、ヘンなヤツと、
さっき出て行かれたぞ?
ケヴィン
『?この壁のむこう、話し声、聞こえる…
…この声は……??
獣人王
(…ごくろうであった…死を喰らう男よ…)
死を喰らう男
(ひひひひ、そりゃあもう、獣人王様の
ご命令ですから!いかがです、私めの闇の呪法の力は?)
獣人王
(…フン!たかが、子供の狼いっぴき、きょうぼう化
させてケヴィンをおそわせただけではないか…まあよい…
予定どおり、ケヴィンの野性をひきだせたからな…)
獣人王
(これでヤツも、よりれいてつな戦闘マシーンとして
完成して行く事だろう……オマエは、もう帰っていいぞ…)
死を喰らう男
(へ!?)
死を喰らう男
(そ、そんな!獣人王様ぁ〜!!)
ケヴィン
『………グググ……獣人王オオオォォッ!
死を喰らう男
「あヒッ!ケヴィンが…!!
ケヴィン
『待てっ!獣人王ッ!!
獣人王
「…ケヴィン…、くっくっく…いい目だ!
その憎しみ、おのれの体内をかけめぐる血の熱さ。
忘れるなよ!
ケヴィン
『うおぉぉっ!うるせぇえええ!!
死を喰らう男
「ひぃぃぃっ!
獣人王
「…バカめ…アタマを冷やしてこい!
獣人王
「……おい、死を喰らう男とかいったな…
死を喰らう男
「へへーっ、ここにおりますです…
獣人王
「……ケヴィンをオマエにまかせる…
死を喰らう男
「は!ははーっ!
死を喰らう男
「あっ!
ケヴィン
『おい!カールに、何した!!
カールを、カールをかえせっ!!!
死を喰らう男
「ひぃぃぃッ!お、おたすけ〜!
わ、ワタクシは…獣人王様の、お言いつけで仕方無く…
死を喰らう男
「あひッ! お、お待ちください!!
こうして、あなたの後をおいかけて来たのは、おわびに
カールさんを生き返らせる方法をお教えしようと…
『!?
死を喰らう男
「ふーっ…、ビ、ビーストキングダムのみなさん、
聖都ウェンデルへ侵攻なさるようですが、ウェンデルの
光の司祭!コイツなら、生き返らせる方法を知っていると…
『ウソをつけ!
死を喰らう男
「いや、ホントですってば!
でも、お急ぎにならないと、ルガーさん達が、先ほど
出発されましたから、先に司祭は殺されてしまうかも!?
『……聖都ウェンデル、どっち!?
死を喰らう男
「ほほほ、こちらでございます…
死を喰らう男
「この月夜の森を進み、ミントスの村から
海ぞいに、道無き道を行けば、城塞都市ジャドに出ます。
ジャドからならウェンデルもひかくてき近いですヨ…
「さあ、急がないと、ルガーさん達より先に、ウェンデルに
たどりつけませんヨ!!彼らに見つからないように…
「私も、こうしているところを見つけられたら…
では、私はシツレイしますヨ!
『……カール…待ってろ、ウェンデルの光の司祭に、
生き返りの方法、聞いてくるから…
オイラの大事なトモダチ……カール…
『……獣人王…、あんなヤツ、父さんじゃない!
だから、母さんも、逃げ出した……
母さん…どこかで生きているだろうか?……会いたい……
ケヴィンは今、心の底から、父、獣人王を憎いとおもった…
と同時に、ワナとはいえ大切な友、カールを手にかけて
しまった、自分の中に流れる野生の血、獣人の血を呪った…
時を同じくして聖都ウェンデルへと侵攻を開始した
獣人達よりも先に、光の司祭に会ってカールの命を
取り戻すべく、ウェンデルへ向けて旅立つケヴィン…
だが、この時ケヴィンは、世界の命運をかけた戦いに
やがて自分が巻き込まれて行く事など、知る由もなかった…
物語は、まだ始まったばかりなのだ…
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